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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和38年(ワ)217号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕三、被告は、本件土地売買契約は宗教人法第二三条、被告寺院の寺則第二八条の規定に違反して無効である旨主張するので、この点につき審按するに、<証拠>を綜合すると、本件土地は被告寺院の境内地で公衆礼拝の用に供するものであること、被告寺院の寺則によれば、被告寺院の境内地を処分するときは被告寺院を包括する浄土真宗本願寺派の総長の承認を得なければならない旨規定されている(第二八条第二項、第四条)こと、被告寺院の代表役員は本件契約締結の日右土地の売却につき承認を受けるための申請書を作成し、買主たる原告会社の代表者の署名捺印を得たうえ、これを右本山の教務所に持参したが、同所長から書類の不備を指摘されて持ち帰つたまま承認申請手続を行つていない事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によると、本件契約は宗教法人法第二三条、被告寺院の寺則第二八条第二項に違反するものというべきであるから、被告の抗弁は、その余の手続の履践がなされたか否かにつき判断するまでもなく、理由があるものといわなければならない。

四、そこで、原告の再抗弁について検討する。

(1) 先ず原告は、本件土地の売買における手続上の瑕疵につき善意であつた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、かえつて、前示認定事実によれば、原告会社の代表者松尾恒司は被告寺の代表役員原田高明から、本件土地の売買につき被告寺院を包括する宗派の総長の承認を必要とすることを告げられて、その承認申請書に買主として署名捺印したのであるから、原告が本件契約において宗派の総長の承認があつたと信じていたと認めることができず、従つて、この点に関する原告の右抗弁は理由がない。

(2) 次に、<証拠>を綜合すると、次の事実を認めることができる。

(イ) 被告は、その本堂が終戦後建築されて老朽化しており、本件土地も僅かに山門をもつて公道に接するという袋地の状態にあつて、公道を通行する自動車等の騒音のため宗教活動に支障を来たしており、またその山門を建てる際本件土地を担保に訴外九州相互銀行から借り受けた約金一二〇万円のため、同銀行から強制執行を受けるおそれが存したこと等を機縁に、本件土地売却の議が起り、昭和三七年一〇月頃から数次に亘つて責任役員原田高明、原田絹子及び藤井友市の全員、門徒総代、その他の門徒が協議した結果、庫裏及び本件建物を他に移転して本件土地を売却することとしたが、移転先の土地の購入資金及び移転費用がなかつたため、本件土地売却代金の一部をもつて右移転先の土地を購入し、その余の代金、門徒からの応分の寄付金(金三〇〇万円ないし金五〇〇万円)及び墓地分譲代金をもつて山門、庫裏等の移転及び本堂再建の費用に充てることとしたうえ、本件土地の売却を門徒総代森秀雄に一任するに至つた。そこで森秀雄はそ移転先として佐世保市園町八六番一山林等一一筆合計約一、四〇〇坪の土地を、その所有者奈良屋住宅合資会社から金一、〇〇〇万円で買入れるべく交渉したうえ、本件土地の売先を物色して交渉したがいずれも不成功に終つたため、同三八年一月下旬頃原告に対し右土地の買受方を慫慂するに至つたので、原告はその頃から被告の代表役員、門徒総代等と屡々会合を重ねて被告の前示移転計画及び代金額等につき検討を加えた結果、同年三月一八日本件契約を締結するに至つたこと。

(ロ) ところで原告は本件契約の締結に当り、その代金のうち金一、〇〇〇万円の支払時期を、被告の前示移転先の土地の購入時と一致するように定めたほか、残代金のうち金二〇〇万円も、右土地の整地工事に着手した際被告の求めに応じて直ちに支払うこととし、更に被告が右土地の整地後本堂等の移転期間を見積つたうえ本件土地の引渡時期を定める等被告の移転の便宜を考慮してその交渉に応じてきたが、被告は、その頃本堂に本件土地の処分につき宗教法人法第二三条所定の公告をなしたが、責任役員はもとより門徒から何等の異議が存しなかつたのにかかわらず、右土地処分につき必要とされる宗派の総長の承認については、本山の教務所長からその承認申請書の不備を指摘されて持ち帰つたままその申請手続をとらなかつたこと。

(ハ) 被告は、本件契約に基づく代金のうち昭和三八年三月一八日金一、〇〇〇万円、同年四月一〇日金二〇〇万円の支払いを受け、これをもつて移転先たる前示土地を購入し、同年四月頃からその整地工事に着手しこれを完了し、同年九月頃本件土地に存した庫裏の移転も終つたこと。

(ニ) 原告会社は、本件土地を利用して有料駐車場等を営むことを目的に設立されたものであるが、原告が被告に支払つた前示金一、二〇〇万円も、原告が訴外株式会社親和銀行から金一〇〇円につき一日金二銭八厘の利息で借り入れたものであること。

(ホ) 被告は、原告の催告にもかかわらず、移転工事を中止し、本件契約の履行期日たる昭和三八年六月二〇日に至るも、本件土地の引き渡しに応じようとしなかつたばかりでなく、原告より高価に本件土地の買取りを希望する者が出現するや、同年八月三日頃から原告に対し履々本件契約の解除を迫り、これに応じなかつた原告に対し金三〇〇万円の寄附を要求したこと。

(ヘ) 他方、被告の購入した前示移転先の整地に予想以上の費用(金五〇〇万円位)を要したばかりでなく、森秀雄が右土地の一部を不正に転売してその利益を着服したとの噂が伝わるに及び同人の関与のもとに成立した本件契約も不当に廉価に売却されたのではないかとの疑いが持たれた結果、被告の本堂再建費用等を門徒からの寄付によつて賄うことも困難視されるに至つたが、当初の計画をそのまま遂行するため、本件売買代金を増額させるか或は本件土地を更に有利な条件で他に売却すべく、昭和三八年八月二六日頃から本件契約の無効を主張するに至つたため、原告において本件土地の引き渡しを受けて利用することができないこと。

右認定に反する被告代表者本人の供述部分、前顕各証拠に照らして措信できず、他にこれを動かすに足る証拠は存しない。

以上に認定したとおり、被告は責任役員等の承認のもとに本件土地を売却してその売却代金、門徒からの寄附金及び墓地分譲代金をもつて移転先の土地購入費、移転費用及び本堂再建費用等に充てることとし、宗教法人法第二三条所定の公告をなしえたうえ原告に対して本件土地を売却し、原告も被告の右の如き計画を了承して代金の支払い及び右土地の引き渡し時期等について考慮を払つていたにもかかわらず、被告はさしたる支障も存しないのに右土地処分につき宗派の総長に対する承認申請手続をなさず、しかも原告から支払いを受けた本件土地売却代金の一部たる金一、二〇〇万円をもつて、移転先の土地を購入してその整地費用に充てながら、他より更に高価で本件土地の買受けを希望する者か出現するや、原告に対して本件契約の解除を迫つたり金三〇〇万円の贈与を求め、更に前示整地のため予想外の費用を要し、かつ門徒からの寄附金も困難視されて当初の計画の実施が危ふまれても、これを変更することなくそのまま遂行しようとし、これに要する費用の不足分を本件土地売買代金の増額、または右土地を他により高価に売却して賄うべく、宗派の総長に対する承認手続の欠缺等を理由として、本件契約の無効を主張するに至つたというのであるから、被告の右の如き行為は、原告の立場を無視してなすべき手続もとらず、これを理由に原告を困惑させて目的を達せんとするものであつて、本件の売買関係を支配する信義誠実の原則に著しく違反し、到底是認することができないものと断ぜるを得ない。

それ故、被告の本件契約が無効であると主張することは、権利濫用に該当するかどうかについて判断するまでもなく、許されないものというべきである。(長久保武 藤野岩雄 高木貞一)

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